ワタナベ眼科の患者様のなかで、平成26年5月22日の国民生活センターの報告をご覧になり、ご自身のカラーコンタクトレンズ(以下、カラコン)が安全であるかどうか心配なさっている方も多いと思います。
私は、個人的に以下のように考えております。
多くのカラコンのメーカーは、約半世紀前に発売された古い素材(グループI)を使用していますが、透明なCLではグループIの素材はほとんど使われていません。
グループIIやIVの酸素透過性の高い比較的安全なカラコンは数種類だけで、あとの300種類以上は酸素透過性が悪いグループIの素材で、一部にはレンズ表面の凹凸があり眼表面に悪影響をもたらすものもあります。
ワタナベ眼科では安全性の高いカラコンを推奨しております。
これらをお使いの方はご安心してご使用ください。
但し、透明なコンタクトレンズでも、10人に1人が眼障害を起こします。ワンデータイプは毎日使い捨てにして、2週間交換のものは最長でも2週間で新しいレンズに交換し、夜寝る前にははずし、充血などがあればレンズを外す、などのルールを守らないと安全なレンズであっても眼障害を起こすことがあります。
通販のサイトでは、日本の厚生労働省の高度管理医療機器として承認を受けていないカラコンを承認を受けたカラコンに紛れ込まして販売している所もありました。日本で高度管理医療機器の承認番号を得ているカラコンは現在300種類以上あります。今回の国民生活センターの調査は、市場で大きなシェアを取っている20~30種類が対象にしています。毎日使い捨て8種類、頻回交換レンズ2種類、1ヵ月交換6種類、1年まで使える1種類、未承認3種類でした。(国民生活センターの報告の表1にレンズ名が公表されています。)
国民生活センターの発表は、どのレンズが良くて、どのレンズが悪いということを明かにすることを目的としていません。従って、酸素透過率の話題は避けています。
酸素透過率の悪いCLを装用すると、角膜は酸素不足を起こし、角膜浮腫(角膜の透明性が低下する)を起こします。Holdenの論文では、角膜浮腫を起こさないと考えられる酸素透過率(Dk/L値)は24.1±2.7と言っています。酸素透過率(Dk/LまたはDk/t)はDk値をレンズの中心厚み除した値で、実際のレンズ下の酸素分圧に相関しています。酸素透過係数(Dk値)素材の酸素透過性を表します。Dk値が高いほど、中心厚みが薄いほど、酸素をたくさん透すということになります。
含水性ソフトCL(シリコーンハイドロゲルレンズ以外のソフトCL)は、含水率などで4つに分類されており、含水率が高い(グループII、IV)ほどDk値は高く、Dk/L値も高くなります。
シリコーンハイドロゲルレンズは、その分類が決まった後に登場されたため、日本ではシリコーンハイドロゲルレンズを含水性ソフトCLの4分類に無理やり入れていますが。海外では、2008年に新しいISO分類が発表され、シリコーンハイドロゲルは、4つ分類以外の新しいグループVというカテゴリーに分類されています。2016年2月に発売されたアルコン社のエア オプティクス ブライト・カラーズは、厚生労働省の分類ではグループIですが、ISO分類ではグループVに分類されます。
Dk/L値が24以上のカラコンは、グループII、IVのものだけでした。レンズの厚みは薄いほどDk/L値が高くなりますが、今回グループIのレンズで中心厚み(実測値)が一番薄いのが0.06mmでした。グループIのDk値の公表値が8~12ですので、Dk値10としてDk/L値は17となり、24には届かないことがわかります。
(注意:ここでDk/L値と言っているのはメーカー発表値です。最近は、高い数値を発表したいというメーカーの意図があります。同じHEMAの素材でも、「8」の1.5倍の「12」という数値もあるのは、各社の測定方法の違いによるものです。これについては、公的機関が同一条件で測定しなければばらつきは出ても仕方がないでしょう。)
グループIのメーカーは、多くの場合、素材のグループ分け、Dk値や中心厚みなどは、性能が悪いことがわかってしまうため、インターネットのホームページでは公表していません。
今回の報告では汚れの問題は取り上げていませんが、汚れが付着すれば酸素透過率は低下するため、「毎日使い捨て」や2週間で交換する「頻回交換レンズ」が安全性は高いと言えます。1ヵ月交換の「定期交換レンズ」や度数ありの1ヵ月以上使用する「従来型レンズ」は、汚れによる性能の低下が危惧されます。
Dk/L値が24以上のカラコンで、「毎日使い捨て」か「頻回交換レンズ」をお勧めします。
グループ | 分類 | Dk/L値 |
---|---|---|
グループI (低含水:非イオン性) |
通販や大型ディスカウント店で販売されているほとんどのカラコン | 10~17 |
グループII (高含水:非イオン性) |
フレッシュルック デイリーズ | 26 |
ナチュレール | 24 | |
グループIII (低含水:イオン性) |
||
グループIV (高含水:イオン性) |
ワンデー アキュビュー ディファイン 2ウィーク アキュビュー ディファイン |
33 |
グループV (シリコーンハイドロゲル) |
エア オプティクス ブライト エア オプティクス カラーズ |
Dk/L値 138 |
レンズ表面の凹凸は、眼表面に機械的な影響を与えます。レンズは、涙の上に浮かんでいるという表現をしますが、レンズ表面が平滑であれば摩擦を生じませんが、凹凸があると眼表面を擦ります。とくに上の瞼が押す角膜上方は良く上皮障害を起こす部分です。
さて、レンズの凹凸はどのようにしてできるのでしょうか?「カラコンの色素による凹凸」と「レンズに付着した汚れ」によって凹凸ができます。
透明なレンズでは、レンズ表面の凹凸を防ぐため、「毎日使い捨て」か「頻回交換レンズ」に移行しています。カラコンでも「毎日使い捨て」か「頻回交換レンズ」が望ましいことは当然です。
カラコンの場合、必ず、「色素の封入の部位をサンドイッチ構造にしている」という表現されていますが、今回の報告を見ると、レンズの表面に印刷しただけ(国民生活センターの報告の写真1、2)やレンズの縁から飛び出ているレンズ(写真3)が報告されています。
ほとんどのグループIのカラコンは日本国内での臨床試験を行っておらず、書類上「サンドイッチ構造である」と承認申請で偽りの表現を行っても承認されていると考えられます。15年ほど前まではすべてのコンタクトレンズは臨床試験をしないといけなかったのですが、最近は50年以上前に販売されたグルー プIの素材は国内での臨床試験を行わなくても承認を得ることができます。
従って、安価にカラコンを販売するために、わざわざ性能の悪いグループIの素材を使うことになります。それらは、韓国や台湾で生産されています。一方、グループIIやIVのカラコンは、欧米で生産されています。
日本コンタクトレンズ学会の障害調査の報告書(日本コンタクトレンズ学会のホームページ参照)では、障害発生時に使用していたCLの使用日数があり、「1日が11.9%」、「2日から2週間が21.3%」もありました(2週間以内が33.2%)。これは汚れによる障害とは考えにくく、レンズ表面の 凹凸か酸素不足と考えられ、全体の3分の1になります。「1日が11.9%」はほとんどが色素によるレンズ表面の凹凸が原因と思われます。
ワンデーアキュビューディファインのように、きれいにサンドイッチ構造になっており、レンズ表面に凹凸がないレンズをお勧めします。また、汚れの蓄積しない、「毎日使い捨て」か「頻回交換レンズ」をお勧めします。なお、詳しく、どのレンズがどの封入部位にあるかは、7月に行われる第57回日本コンタクトレンズ学会で報告があります。
コンタクトレンズの承認基準は、製品の不均一性がないように許容範囲を超えないように定められています。(国民生活センターの参考資料3をご覧ください)
本来は、メーカーや輸入販売会社が定期的にレンズの抜き打ち検査を行わないといけないのですが、一部の会社はその検査の技術も持っておらず、検査を行っていない可能性が高い。
ソフトレンズは、表のように飛躍的に進歩を遂げてきました。グループIから、グループIIやIVに移行し、透明なレンズでは、使い捨てのシリコーンハイドロゲルレンズも普及しています(第1世代→第2世代→第3世代→第4世代)。
(なお、ここで、第1世代などと呼んでいますが、この呼び方は一般的には使われていません。理解してもらいやすいために使用した単語とご理解ください。)
第1世代 1970年ごろ |
1ヵ月以上使用するグループIの透明なレンズが登場(Dk/L値:6~24) |
---|---|
第2世代 1980年ごろ |
1ヵ月以上使用するグループIIの透明なレンズが登場(Dk/L値:20~30) |
第3世代 1980年ごろ |
使い捨てのグループIVのレンズが登場(Dk/L値:30~35) |
第4世代 1980年ごろ |
使い捨てのシリコーンハイドロゲルレンズが登場(Dk/L値:100以上) |
現在、透明なCLは第4世代の使い捨てシリコーンハイドロゲルレンズが多くのシェアをとっていますが、カラコンはシリコーンハイドロゲルの素材はまだ開発されておらず、3のグループIVの素材がもっとも酸素透過率が高いレンズです。
残念なことに、グループIの1ヵ月交換の「定期交換」または1ヵ月以上使用する「従来型」のカラコンが激増しています。第3世代や第4世代から第1世代に戻ることになり、性能的にはまさしく「時代に逆行している」と言わざるを得ません。
透明なCLでは、グループIのHEMAの素材は現在ほとんど使用されていません。ところが、50年前からあるということで、カラコンであっても臨床試験なしで書類審査だけで承認を取れます。従って、営利を目的にしている一部の会社は、安価にカラコンの承認がとれ、表面に色素を印刷するだけで安価に製造できるHEMA素材を選択するようです。
カラコンが時代に逆行して問題になる点は以下の4つの項目です。
一番最初に述べたように、安全なカラコンは種類が少なく、派手なデザインが少ないため、装用者の選択範囲が狭くなっています。
私は7年前から学会などで、グループIVやIIの安全なカラコンを販売している会社に、「安全な素材で、もっと装用者が望む派手なデザインのカラコンを開発して欲しい」と言ってきました。しかし、一部の眼科医が一流メーカーに「派手なカラコンは作るな!!カラコンなんかこの世の中からなくなればいいんだ。」と言うので、装用者の希望するような安全で派手なカラコンがないのが現状です。
大阪府立高等学校養護教諭研究会第3学区7地区研究会の報告(2012年)では、高校3年生の女子生徒の約5割がカラコンの装用を経験しています。学校健診などで生徒に聞くと、中学の時から使用している者が多く、眼科には受診せずに、友達と一緒に大型ディスカウント店に行き、装用方法や消毒方法も知らずに使用しているのが現状です。CLは、もはや高度管理医療機器の扱いはされておらず、ツケマツゲと同等に考えられています。
カラコンの装用で、眼の痛みや充血があっても生徒たちは眼科診療所に行きません。ナゼかと学校の現場で聞くと、「眼科に行くと怒られるだけで行きたくない。」と言い、自分の眼の健康については二の次になっています。我々眼科医も反省しなければならないことが多いと思います。
1年に1度、医療機器センターなどが行う有料の講習を受ければ、誰でもCLを販売できるため、インターネット通販をはじめ、薬局やメガネ店で販売されていますが、近いうちにコンビニで販売されることも予想されます。
透明なソフトCLでは、ほとんどの人が「頻回交換レンズ」か「毎日使い捨てレンズ」を使用しています。
「頻回交換レンズ」は最長2週間で交換するレンズで、素材としては毎日使い捨てと同じものが多いため、使い捨てのグループに入れます。
グループIのカラコンで、シェアがもっとも多い「定期交換レンズ」は1ヵ月で交換するレンズで、素材としては従来型(1~2年使用)と同じものが多いため、従来型にグループ分けします。
承認されている度なしカラコンは、最長でも1ヵ月で交換しないといけないのですが、大型ディスカウントショップでは1年使用できるなど間違った表示をしている店もあります。行政の取り締まりがないために、高度管理医療機器であっても無法地帯と言ってもよい状態にあります。
眼科医に推薦する図書:
日本コンタクトレンズ学会が発行した「コンタクトレンズ合併症」(メジカルビュー社、9000円税別)2013年発刊